ぼくらのストラカン戦争

今日、昼飯を食堂で食べてたら、同期の女の子が「ここ、いい?」と言って向かいの席に座ってきた。
断る理由もないので、「どうぞ」と言うしかない。
彼女とは別に仲良くも悪くもなく、たまに話す程度の仲で、その時も当り障りのない世間話をしながら、カツ丼を食べていた。
どれだけ取り繕っても親密とは言えないから、会話も淀みなく流れるというわけにはいかない。会話をしては途切れ、その間に息継ぎのように飯を食う、というぎこちない事態にならざるを得ない。
そんな相互に認識し、了承し合っている停滞状況を打破したのは、彼女からだった。
何度目かの息継ぎで俺が味噌汁を啜っていると、突然こう言ってきたのだ。

「ねえ、カツ丼くれない?」

言っている意味がわからない。

「いや、あげれないよ、だって俺のカツ丼だし。」

当然だ。しかし、彼女の要求はやむことがない。

「カツ丼ちょうだいよ、カツ丼。」

しまいには手を出して、俺のカツ丼を取ろうとする。
反射的に俺は彼女の手首をつかんだ、と思ったが、気付くと俺は宙に舞っていた。
背中に痛みが走る。叩きつけられたのか・・・・俺は?
そう考える間もなく、仰向けになった俺に彼女が拳を叩き込もうとする。
すんでのところで首をよじってかわし、彼女の腹に一発ぶち込んだ。
だが、それはしっかりと左手でガードされていた。
間髪入れずにかち上げた膝もあっさりとかわし、彼女は立ち上がり、手招きをする。

「やっちまえ、ジャッキー!そんな野郎ぶちのめしちまえ!」

いつの間にか野次馬たちが取り囲み、うるさく騒いでいる。
俺は敵意剥き出しの声をかきわけながら、ゆっくりと起き上がる。
俺がようやく立ち上がったところで、彼女は拳を振りかざして迫ってきた。
右、左、右、とリズムよく繰り出されるパンチを、俺は余裕を持ってかわす。
当たらなければ、どうということはない。

「あげああああ!」

大振りだ。戦いは苛立ったら負けだ。俺は首をひいて、その右フックを交わし、あいた顎を仕留めるつもりだった。しかし、舞ったのは俺の髪の毛だった。
見ると、彼女の手の甲に取り付けられた仕掛けナイフが、食堂のぼんやりとした明りの下で光っている。

「やっちまえ!!やっちまえ!!」

女は興奮する野次馬の声に煽られるように襲い掛かり、ナイフを喉笛につきたてようとする。
だが、ナイフが喉笛に突き刺さる直前で、俺は右拳に気合を入れ、必殺拳・JALリゾートを繰り出し、そのナイフを下から叩き折った。
跳ね上がったナイフの欠片は、ゆったりとした弧を描き、カツ丼に突き刺さる。

「俺のかつ丼がぁああぁぁぁ!!」

逆上している自分がいることが、わかる。だが、俺はあえて止めない。
奴は報いを受けなければならないからだ。
俺は懐から対戦車バズーカM−67を取り出し、発射する。
一撃だった。それを食らっても、女はなお生きている。だが、もう闘う力はないだろう。

「強くなったわね・・・・」

女はあえぐように言った。ああ。俺はそれだけ答えた。

「・・・・でもその先にどこにいくの?」

俺はこう答えた。

「この星の一等賞になりたいのカツ丼で、俺は!そんだけ!」

ナイフが刺さったカツ丼を口で引きちぎり、動いたら腹が減ったので、追加の注文をしようとした。
しかし、受け取り口に向かうと、食堂の奥から飛んできたおたまが額に直撃した。

「お前に食わすタンメンはねえ!!」