男前ポールセン

よく行く豆腐屋の兄ちゃんがちょっと変だ。
見た目は普通の若い兄ちゃん、威勢の良い声で客を呼び込んでいる。豆腐も普通だ。つうか、安くてうまい。まごうことなき豆腐ガイ、朝昼豆腐で夜焼酎、おぼろ豆腐の風呂に入り、枕の中には溢れんばかりのにがりがin 、第二次豆腐 戦争に出征した経験があり、2ストライクからの決め球は外角いっぱいの玉子豆腐、奥さんへのプロポーズには生湯葉の指輪を送った。
そんな普通の豆腐ガイ(豆腐き○ちがいの略)な彼だが、お金をもらい方を知らないらしい。豆腐ガイの丹精こめた商品をレジまで持っていくと、威勢よく「あい、210円!」と言われるので、素直に千円札を出す。すると豆腐ガイはそれをにこやかに受け取り「あい、1000円から、サンキュー!」…サンキュー?そう疑問が浮かぶ前に、躊躇なく豆腐ガイは「あい、お釣り790円、サンキュー!!」と叫ぶ。その完成されたスタイルに、我々は否応なく店から追い出され、サンキュゥゥゥゥ???という煮え切らない思いを抱えたまま帰途に着き、湯豆腐をつつかなければいけないのだ。その味はもちろんうまい。
さて、これをどうするか。俺はこのまま豆腐ガイの手の平、いや、豆腐の上で踊らされていいのか…俺は吉田照美のように見下されたままでいいのかっ…! 無論、いいはずもない。これは俺の敗北だけではない…人類の、豆腐(英語で言うとtofu)に対する永続的な隷従を意味するのだ…!
俺はお気に入りのM-78対戦車バズーカをポケットに突っ込み、豆腐屋へと向かった。豆腐屋はすでに店じまいの支度をしていた。だが、俺が来たことに気づくと「らっしゃい!」と威勢の良い掛け声を出す。豆腐ガイは手に持っていた荷物を置き、両手を二度叩いた。乾いた音が、サンキューの準備は出来ているという風に聞こえる。俺はおもむろに豆腐を手に取り、ガイに手渡した。「あい、105円になります!!」俺は金の代わりに懐からM-89対空高射砲を取り出す。豆腐みたいにみるみる血の気を失っていく奴の顔…のはずだった。だが、男は顔色一つ変えず「あい、高射砲から、サンキュー!!」と答え、笑顔で高射砲を受け取り、レジに突っ込んだ。呆然とする俺に「あい、お釣り1780円、サンキューサンキュー!」と手渡し、豆腐ガイは再び店じまいの支度を始めた。二、二度撃ち…俺は敗北感にまみれながら立ち尽くす。ガイはそんな俺に気づき、「いつも来てくれてサンキュー!豆腐サンキュー!!」俺はこう言うのが精一杯だった「豆腐サンキュー!サンキュー!」と。豆腐ガイはにっこりと笑うと、一言こう言った「サンキューサンキューうるせえんだよ」と。
この日、広島に原爆が落とされた。