打ち上げ花火下からヴィドゥカ

台風が来る ものすごいやつ 台風が来る 記録破りだ


そう歌った桃井かおりが、先ごろのロンドン同時多発テロで命を落としたのは本当に残念というほかない。その作詞桃井かおり、作曲デンゼル・ワシントンの名曲「台風」の歌詞の続きを見よう。


泥棒よりも早い逃げ足 強盗よりも強引な奴


何を言っているのかわからない。いや、私は文盲ではないから、書いてあることはわかる。問題は暗喩だ。象徴だ。メタファーだ。この台風という歌を額面どおり受け取ってはいけない。なにしろ稀代の暗喩マスターと呼ばれた桃井かおりのことだ。周到な罠を張ってあるに違いない。


では、どう読み解いていけばいいのか。泥棒が恋泥棒すなわち東幹久であることは間違いない。桃井と東の間に相当な確執があったことは周知の事実である。顔を合わせればいがみ合っていた二人を覚えている人も多いだろう。当時の新聞紙上には「桃井、東にケツバット」「東のトゥシューズに画鋲が・・・・桃井の仕業か?」「東、絶縁宣言。会見席上で『桃井氏』発言」などの見出しが躍った。しかし、そもそもの発端は諸説あるが、私は「桃井・東双子説」を推したい。その数奇な生まれゆえの業の深さが二人の和解を阻んでいたのだ。


ともかく、この論理でいくと、当該する歌詞は「東幹久よりも早い逃げ足」ということで、いつも仕留める寸前で逃げていく東の臆病や黒い肌を痛烈に罵倒している内容になる。


次は「強盗よりも強引な奴」であるが、ここではやはり「強盗」のメタファーが問題になる。だが、ここは間違いない、ライミング強盗・エミネムである。エミネムについては言うまでもないだろう。数々のヒット曲を飛ばしているが、現在は「君が代」ラップバージョンの皮肉的な歌詞をめぐり、日本政府と係争中である。ヒットラッパーでオートフラッパーであるエミネム桃井かおりは肉体関係でもあったが、悪態関係にもあった。あのよく黒人が路上でやってるアレである。暗喩道を極めようとしていた桃井はデトロイトに飛び、そこでまだ無名時代のエミネムと出会った。その頃のエミネムライミングはひどかった。韻を踏んでることなどほとんどなく、ただ好きな野球チームの名を連呼するだけだった。当然、黒人たちからは酷評された。しかし、エミネムは「韻踏んでるもん!フランス語とかにしたら!」と泣きじゃくる始末。ブラザーたちにぼこぼこにされたエミネムにそっと白い手ぬぐいを渡したのが、ほかならぬ桃井であった。


それから、二人のライミング修行が始まった。昼は路上でライミング、夜はベッドでスワッピングである。昼夜問わず悪態をつき続けることで、エミネムライミングと性技は目に見えて上昇していった。ちなみにこのとき桃井は処女を失っている。そして、二人には必然の別れが。白人ラップの旗手であるエミネムイエローキャブに乗っているという事実は、ショウビズ界が許さなかったのだ。別れ際にエミネムは桃井の好きな野球チーム「中日ドラゴンズ」の名前を連呼した。それから10年が経ち、桃井はエミネムを懐かしむ意味で「強盗よりも強引な奴」と歌っている。


この部分を読み解いただけでも、「台風」が愛の歌であることがわかる。ここで私ははたと気付く。桃井は死んでない。テロで爆死したという事実でさえ、彼女には何かの暗喩なのだ・・・・!さあ、桃井暗喩伝説の第二幕の始まりだっ・・・・!


私は資料を手にアブダビへと向かった。