さらばエシェンの光

「マイケル」という芸人を知っているだろうか。


私は何度かテレビで見たことがある。知らない人はグーグルさんに聞いてみてくれ。
しかし、何度見ても彼がテレビに出ている理由がわからない。
だが、そんな彼でもテレビに出られる何か隠された理由があるのだろう。ジーコ三都主を使いつづけるのも理由があるのだ、きっと。
今日はそれを分析しようと思う。


テレビを見ていると雑多な人間が出ている。
一見それはばらばらであり、基準はないように見える。
しかし、起用されるには起用される理由があるのだ。
一人一人をいくつかの要素に分解してみるとわかりやすい。
たとえば和田あき子は「男気」+「義理人情」+「飲み込みの悪さ」である。
日曜昼12時からの「あっこにおまかせ」は、ほぼこの要素で成り立っている。
逆にタモリとなると、「サングラス」+「なんとなく大物感」+「悪ノリ」だ。
「笑っていいとも」の全てはここに集約される。


ただ、そうなると、松山千春でもいいんじゃねえの、と思うかもしれないが、間違ってはいけない。
松山千春は「サングラス」+「なんとなく大物感」+「マイク持ち方変」だ。
考えてもみてくれ。平日の昼間からあの男に「悪ノリ」などされたら、奥様は安心して食事をできない。
下手なホラー映画よりよっぽど怖いかもしれないし、そういうのが好きな奥様は平日の昼から絶頂に達してしまう。それも逆に怖い。
みのもんたにいたっては、わざわざ説明するまでもないだろう。
黒酢」+「ほうれん草」+「半身浴」で決まりだ。


つまり、番組に出る人は、その番組が必要とする属性から選ばれるのだ。
「ベタ」+「リアクション」が欲しいとなると、更にそれにプラスして「声が高い」の出川哲郎か「帽子」のダチョウ倶楽部上島だろう。
「若さ」がつくとアンタッチャブル山崎であり、「ノリつっこみ」の属性を兼ね備えているのはまず間違いなく、ますだおかだのおかだである。


他にも例をあげよう。
「武器はないという潔さ」+「なんとなくそこにいる感」だとホンジャマカ恵であり、「食うことしか武器はないという潔さ」+「なんとなく食ってる感」でホンジャマカ石塚である。
なんと、やはりコンビは似通うものなのか。
しかし、武器はなく、ただそこにいるだけを売りにしている恵は業界でも希少種であり、「シャドーストライカー」と呼ばれ、消える動きを珍重されているが、最近では業界自体からもシャドーしているようである。
他にこれを武器にしているのは中山秀征で、彼には飯島愛がセット価格でついてくる。


段々分類についてお分かりいただけたことかと思う。
さて、くだんのマイケルだが彼はピン芸人に分類される。
それでは、ピン芸人の分類を見てみることにしよう。
ピン芸人だと「あるある系」、「一人劇場型」、「演説系」に分かれるのだが、絶対的多数は前ニ者にあがる。


「あるある系」は最近とみに増殖を始めた種族である。
「顔芸」+「そろそろ行き詰まってきた」のレギュラー、「哀愁」+「そろそろ行き詰まってきた」のヒロシ、「そんな人もいたなあ」のつぶやきシローである。


「一人劇場型」は彼らよりも歴史が古く、一大勢力を保っている。
古代種であるイッセー尾形は「酔ったサラリーマン」+「自己満足」、長井秀和は「間違いない」+「間違いないと言い切るほどのことでもない」、青木さやかは「顔でかい」+「怒鳴る」+「バスガイドのコントって昔誰かやってたよな、同じようなタイプで」で、実にバリエーションも豊富だ。また、長州小力などの突然変異が誕生するのも特徴である。


「演説系」としては「鳥肌実」、「スパルタ教育」など「攻撃型」がわずかに生息するのみである。ただ「みつまJAPAN」は「攻撃型」でない「演説系」として珍重されている(珍種ゆえに活躍の場も少ないが)。


さて、注目すべきなのは、この伝統的三分類(アイゼンクラウツ・シューマッハ博士の分類で俗にクラウツ分類と呼ばれる)に含まれない新種が生まれていることだ。
その多くは「筋肉」という属性を持っている。
パッション屋良は「筋肉」+「んー!」+「真似すると怪我するぞ」であり、中山きんにくんは「筋肉」+「シュール」+「結構若い」である。
最近とみに話題のHGさんもこの分類に入れられるであろう。


では、マイケルもこの分類に入れられるのだろうか?
しかし、彼の要素を考えてみると「筋肉」+「笑顔」+「別に面白くない」である。
さて、これはテレビに出る理由になるだろうか?答えはノンである。
なぜならスポーツジムのインストラクターは大抵この要素を兼ね備えており、場合によっては「筋肉」+「笑顔」+「わりと面白い」というよっぽどテレビ向きの人材が存在するのである。
しかも、彼の場合シャドーストライカー的な働きをするのでもなく、まず冬でもタンクトップという異彩のため、消えることもできない(クラウツ博士の用語では「ギャップを作り出す」という)。
では得意のギャグ「マァイケェル!」なのだろうか。
いや、あれは2丁目の豆腐屋の「はい、おつり600万円!」と同程度の技でしかない。


さあ、困った。なんなんだ。では一体、マイケルとは何者だというのだ!(取調室の机を拳で叩くウィレム・デフォー
「袋小路ですね、警部」「ああ、とりあえずコーヒーでも飲もうか。」「ギャルソン、コーヒー!」「ギャルソンは男だ。」(パルプフィクションからパクりました)


私はテレビをつけ、バラエティ番組を見た。今日もマイケルは出ている。
彼はみんなの前でおどけてみせる。やはり面白くない。その微妙な空気に私は困惑する。
ふと、ブルーハーツの歌を思い出した。


ブラウン管の向こう側 かっこつけた騎兵隊が
インディアンを 撃ち倒した


何も関係はなかった。


私はテレビを消した。やるせない怒りがリモコンを投げさせた。失望と敗北感が私を包んでいた。
止め処もなく流れる涙を拭うことも出来ずに私は夜行列車に飛び乗っラーメン食ったらどうでもよくなった。