マッスル

「ママー、どうしてもマッスルミュージカルにいきたいのー。」
「いけません!」
「筋肉を楽器に見立て音を奏でようというその筋肉質なセンスを感じたいのー。」
「いけません!」
「筋肉によるストーリー仕立てのショーを筋肉的に堪能したいのー。」
「いけません!」
「盛りを過ぎたアスリートたちが必死でしがみつく様に人生の無常を噛み締めたいのー。」
「いけません!」
「元オリンピックメダリストという肩書きが実社会においてどれほど意味がないかを驚愕を持って受け止めたいのー。」
「いけません!」
「興味本位で来たカップルが顔を見合わせて力ない笑いをした後、この最低の状況からどうやってセックスまで持っていくか一部始終を見計りたいのー。」
「いけません!」
「プロデューサーに『何ゆえ筋肉か?』ということを小一時間問い詰めて、しどろもどろに返ってきた回答に『浅はかだね。』と一蹴したいのー。」
「いけません!」
「親に連れてこられた子供が困惑してるところに、『筋肉は世界を救う。』とこっそり耳打ちしてマッチョ路線の茨の道へと誘いたいのー。」
「いけません!」
「出演が終わったアスリートが息を切らせているところに、『ねえ、今幸せ?スポーツしてるときとどっちが充実してる?』と囁いて、在りし日の栄光を思い出させて枕を涙で濡らさせたいのー。」
「いけません!」
「出演者を一人ずつ殴り倒して、『立てよ、国民!』と呼びかけて叛乱を起こし、この国に筋肉独立地区を打ち立てたいのー。」
「いけません!」
「いきたいのー、どうしてもいきたいのー。」
「いけません!マッスルミュージカルなんてこの世にありません!」