天網恢恢疎にしてモラレス

UAEアブダビは摂氏51度もあるという。51度。私の平均体温が36度ほどだから、それより15度も高いことになる。こんな風呂、よっぽどの江戸っ子でもない限り、入れやしない。よっぽどの江戸っ子とはどういうものだろうか。15度も熱い風呂に入れるくらいだから、かなりの江戸なのだろう。おそらく「natural born edo」のような江戸そのものという人でなくてはならない。

まず、手鼻は100メートル飛ぶ。室伏の投げたハンマーよりも高く、元中日の今中のカーブよりも緩やかな弧を描いて飛ぶ。その鮮やかな流曲線を見て、あ、虹だ、と言った子どもが、後の宰相となる宮沢喜一だったという。彼が最初に打ち出した「貿易不均衡解消政策」の需要曲線が、あの美しい手鼻の放物線とそっくりだったとしても、それは偶然ではない

もちろん、「す」や「ひ」は発音できない。通常の江戸っ子であれば、「つ」「し」と発音してしまうところだが、生粋の江戸っ子ともなると、「ヌゥ」「ディ」と発音し、もはや江戸っ子だかイタリア人だかスペイン人だか区別がつかない。例をあげてみよう。「まっすぐいってひだり」は通常なら「まっつぐいってしだり」と変換される。しかし、この場合「まっヌゥぐいってディだり」となり、それを全部カタカナに変えてみれば「マッヌゥグイッテディダリ」となり、間に「・」を入れてみれば、「マッヌゥグ・イッテ・ディ・ダリ」と、コートジボアール出身で年間20ゴールはいけそうな感じになる。遅咲きの選手なので、それほどビッグクラブからは注目されない、という不遇な状況ではあろうが。まさにジャック・デリダも真っ青の言語変換だ。

そして、その気質は一本気である。気に食わないことがあるとすぐちゃぶ台をひっくり返す。だが、それは普通の江戸っ子に過ぎない。Natural Born Edoっ子クラスになれば、ひっくり返すのはちゃぶ台ではすまない。政府をひっくり返す。体制転覆だ。「なんじゃ、この飯はぁぁぁぁ!朝からフォンデュってなんじゃぁ!?」「ああ!すいません!お父さん!」「くっそぉ!ひっくり返してやる!」「ええ!お父さん、本気?今月で2度目じゃない?」「うるさぁい!うぉりゃぁぁぁ!待ってろ、小泉ぃぃ!」東京・永田町に集まった生粋の精鋭部隊である江戸っ子たちは100人にも上り、ただちに議事堂を占拠した。以下に彼らの全行動を時系列で眺めてみよう。

10時5分 議事堂前門占拠
10時15分 グラウンドレベルを占拠、民主党壊滅、南門・東門を封鎖
10時22分 2階を占拠、自民党三役捕縛、食堂占拠
10時44分 西門を封鎖、3階・4階を制圧、地下通路封鎖
11時2分 宣言文を発表「自由を抹殺する現政府に鉄槌を」民放各社が放送
11時7分 全拠点制圧、議事堂完全占拠、江戸っ子政府成立を宣言
11時17分 憲法の失効・議会の停止を宣言、さらに自衛隊への帰順を要求
11時22分 前政府の生き残り麻生総務大臣が会見「我々は負けたわけではない」
11時30分 自衛隊帰順を拒否、独自路線へ
11時37分 東京都知事石原、非常事態を宣言、更に諸外国に対して、無政府状態であることを通達
11時44分 行方不明となっていた小泉首相が発見、ただちに会見「手段を考える必要がある。」
11時52分 巨大小泉ロボ出動
11時57分 巨大都知事出動
12時3分 普通の江戸っ子出動
12時7分 一撃で圧殺、小泉ビームにより武装蜂起集団全滅、巨大都知事神田川に足をとられ辿り着けず
12時13分 全拠点を解放、反乱分子鎮圧、政府は治安の回復と政府の復活を宣言

これにて、後の世に伝えられる「江戸っ子の乱」はわずか2時間で幕を閉じる。しかし、一時でも政権を奪った事は現政府の脆弱性を証明することとなり、この後、各地で武装蜂起が頻発、日本は無法地帯となる。だが、この混乱状態も長くは続かない。その頃には既に、その後長く続くファシズム政権の軍靴の足音が聞こえ始めていた。